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乾燥で咳や喘息が悪化?今日からできる加湿・保湿セルフケア|呼吸器内科医が解説

[2025.09.26]

はじめに:乾燥がもたらす呼吸器への影響

秋から冬にかけて、空気の乾燥が気になる季節となりました。お肌の乾燥はもちろんのこと、喉のイガイガや咳が止まらないといった呼吸器の不調を感じる方も少なくないでしょう。しかし、「たかが乾燥」と軽視してしまうと、思わぬ健康リスクに繋がる可能性があります。特に、喘息をお持ちの方や、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすい時期には、適切な加湿・保湿対策が呼吸器の健康を守る上で非常に重要となります。
このブログ記事では、呼吸器内科の視点から、乾燥が呼吸器に与える具体的な影響と、喘息や感染症の予防に効果的な加湿・保湿対策について詳しく解説します。日々の生活に取り入れられる簡単な工夫から、加湿器の賢い選び方、そして注意すべき「加湿器肺炎」まで、皆さんの健やかな呼吸をサポートするための情報をお届けします。

乾燥が咳・喘息を悪化させる仕組み

私たちの呼吸器は、外気から肺を守るために様々な防御機能を備えています。しかし、空気が乾燥すると、これらの防御機能が十分に働かなくなり、喘息の悪化や感染症のリスクを高めてしまいます。

気道粘膜の乾燥と咳反射

乾燥した冷たい空気は、気管支などの気道を直接刺激します。これにより、気道が過敏になり、喘息をお持ちの方では発作が誘発されやすくなります。また、健康な方でも、喉のイガイガ感や咳が出やすくなる原因となります。気道粘膜が乾燥すると、その表面を覆う粘液の量が減り、粘膜自体のバリア機能が低下します。

粘膜防御機能の低下と感染リスク

呼吸器の粘膜表面には、非常に小さな「繊毛」と呼ばれる毛のような突起が無数に存在します。この繊毛は、常に一定の方向に動いており、粘液とともに吸い込んだウイルス、細菌、ほこりなどの異物を体外へ排出する重要な役割を担っています。これを「粘膜繊毛運動」と呼びます。しかし、空気が乾燥し、湿度が40%以下になると、この粘膜繊毛運動が著しく低下することが多くの研究で示されています 。
繊毛の動きが鈍くなると、異物を排出する能力が落ち、ウイルスや細菌が気道に留まりやすくなります。これは、まるでゴミを掃き出すほうきが動かなくなるような状態です。結果として、病原体が体内に侵入しやすくなり、感染症にかかるリスクが大幅に高まります。

感染症リスクの増大

乾燥した環境は、インフルエンザウイルスや風邪の原因となるウイルスが空気中に長く浮遊しやすい条件でもあります。加えて、上述の粘膜防御機能の低下が重なることで、私たちは感染症に対して非常に無防備な状態になってしまいます。風邪、インフルエンザ、さらには肺炎といった呼吸器感染症は、喘息の症状を悪化させる最大の要因の一つであり、特に冬場は注意が必要です。

喘息・COPDの悪化

喘息患者さんにとって、乾燥は気道の炎症を悪化させ、咳や呼吸困難といった症状を引き起こす直接的な原因となります。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんの場合、乾燥によって痰が硬くなり、排出されにくくなることで、咳や息切れがさらに悪化することがあります。症状の長期化や重症化を防ぐためにも、適切な湿度管理が不可欠です。
[1] Condair. 空気の乾燥が呼吸器の気道防御システムに与える影響

室内環境を整える加湿のコツ

乾燥から呼吸器を守り、喘息や感染症のリスクを低減するためには、日々の生活の中で意識的に加湿・保湿対策を行うことが重要です。ここでは、具体的な対策をご紹介します。

理想的な湿度は40〜60%

室内の湿度は、一年を通して40%から60%に保つことが理想的です。この範囲の湿度は、ウイルスの活動を抑制し、私たちの喉や鼻の粘膜が本来持つ防御機能を最大限に発揮できる環境とされています。湿度が高すぎるとカビやダニの発生を促し、低すぎると呼吸器への負担が増大するため、適切なバランスが重要です。

加湿器の種類と特徴(スチーム式がおすすめ)

加湿器は、室内の湿度を効率的に保つための強力な味方です。しかし、選び方や使い方を誤ると、かえって健康を害する可能性もあります。
加湿器の種類と特徴
  • スチーム式(加熱式): ヒーターで水を加熱し、蒸気を発生させるタイプです。水を沸騰させるため衛生的で、加湿能力も高いのが特徴です。加湿器肺炎のリスクが低いとされています。
  • 気化式: フィルターに水を吸い上げ、ファンで風を当てて気化させるタイプです。消費電力が少なく、蒸気が出ないので安全ですが、フィルターの手入れが必要です。
  • 超音波式: 超音波で水を微細な粒子にして放出するタイプです。運転音が静かで消費電力が少ないですが、タンク内の水が雑菌で汚染されると、そのまま放出されるリスクがあります。
  • ハイブリッド式: スチーム式と気化式、または超音波式と加熱式を組み合わせたタイプです。それぞれの利点を持ち合わせていますが、構造が複雑になる傾向があります。
喘息患者さんにおすすめの加湿器
喘息をお持ちの方には、特に清潔さを保ちやすいスチーム式(加熱式)の加湿器がおすすめです。水を加熱殺菌するため、雑菌やカビが空気中に放出されるリスクが低く、安心して使用できます。また、加湿能力が高く、設定した湿度を安定して保ちやすい点もメリットです。

加湿器肺炎を防ぐための注意点

加湿器は正しく使わないと、「加湿器肺炎」という健康被害を引き起こす可能性があります。これは、加湿器のタンク内で繁殖したカビや細菌を吸い込むことで発症する肺炎です。
日常的なメンテナンスのポイント
これを防ぐためには、以下の点に注意しましょう。
  • 毎日の給水と清掃: タンクの水は毎日交換し、タンク内部やフィルターはこまめに清掃してください。特に超音波式や気化式は、雑菌が繁殖しやすいため、より丁寧な手入れが必要です。
  • 適切な湿度管理: 湿度を上げすぎないように注意しましょう。湿度計を設置し、常に40%~60%の範囲を保つように心がけてください。
  • 設置場所: 加湿器は、部屋の中央や、エアコンの風が直接当たらない場所に設置すると、効率よく加湿できます。

加湿器がなくてもできる咳・喘息対策

水分補給・マスク・部屋干し・粘膜を守る食事の工夫

加湿器がない場合や、さらに効果を高めたい場合には、以下のような方法も有効です。
  • こまめな水分補給、うがい:喉の粘膜を直接潤すために、意識的に水分を摂り、うがいを習慣にしましょう。特に、温かい飲み物は喉への刺激を和らげます。
  • マスクの活用: 外出時はもちろん、就寝時にマスクを着用することで、喉や鼻の乾燥を防ぎ、保湿効果を高めることができます。特に、咳が続く場合には効果的です。
  • 洗濯物の部屋干し、濡れタオルをかける:洗濯物や濡らしたタオルを室内に干すことで、自然な加湿効果が期待できます。手軽にできる対策としておすすめです。
  • 保湿効果のある食品の摂取: ヨーグルト、オリーブオイル、アボカドなど、粘膜の健康をサポートする栄養素を含む食品を積極的に摂ることも、体の内側からの保湿に繋がります。

咳や喘息が続くときは医師に相談を

乾燥対策は、呼吸器の健康を維持し、喘息や感染症から身を守る上で非常に重要です。しかし、ご自身の判断だけで対処せず、症状が続く場合や悪化する場合には、速やかに呼吸器内科を受診することが大切です。

自己判断せず専門医へ

長引く咳、息苦しさ、痰の増加など、呼吸器の症状は多岐にわたります。これらの症状が乾燥によるものだと自己判断せず、専門医の診察を受けることで、正確な診断と適切な治療を受けることができます。特に、喘息の既往がある方や、高齢者、基礎疾患をお持ちの方は、症状の悪化が重篤な状態につながる可能性もあるため、早期の受診が推奨されます。

定期的な受診と治療の継続が大切

喘息などの慢性的な呼吸器疾患をお持ちの方は、症状が落ち着いている時期でも定期的に受診し、治療を継続することが重要です。乾燥する季節は、症状が悪化しやすい時期でもありますので、主治医と相談しながら、季節に応じた治療計画を立てていきましょう。

日頃からの予防とケアの習慣化

加湿・保湿対策は、一時的なものではなく、日頃からの習慣として取り入れることが大切です。室内の湿度管理、適切な加湿器の使用とメンテナンス、こまめな水分補給、マスクの着用など、できることから始めて、健やかな呼吸器を保つための生活習慣を身につけましょう。

おわりに:健やかな呼吸で快適な冬を

乾燥する季節は、私たちの呼吸器にとって試練の時です。しかし、適切な加湿・保湿対策を講じることで、喘息の発作を予防し、感染症のリスクを低減し、快適な毎日を送ることができます。このブログ記事が、皆さんの呼吸器の健康を守る一助となれば幸いです。
当クリニックでは、呼吸器に関するあらゆるお悩みに対し、専門的な知識と経験を持った医師が丁寧に対応いたします。長引く咳や息苦しさ、喘息の症状など、気になることがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。健やかな呼吸で、活動的な冬を過ごしましょう。

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