SAS未治療の運転は飲酒運転と同等
2026年4月3日、東京都世田谷区の交差点で70代男性が死亡した。赤信号を無視して突っ込んできた車の運転手は34歳の男性。捜査の結果、彼はおよそ1年前にSAS(睡眠時無呼吸症候群)と診断されCPAP機器を処方されていたにもかかわらず、事故の約5ヶ月前から使用をやめていたことが判明した。「SASを理由に危険運転致死罪で起訴されれば全国初」とも報じられている(時事通信、2026年8月6日)。
「処方されていたのに使わなかった」——このケースは特別ではありません。当院でも同様の状況の患者さんに出会うことがあります。CPAPを受け取ったまま使い続けられていない方へ、そして運転をする方へ、今一度読んでいただきたい内容です。
参照:
処方されたCPAPを使わなかった結果——世田谷死亡事故の問題点
診断から事故まで何が起きていたのか
加害者の男性はSASと診断された後、CPAP機器を処方されていました。しかし診断から約8ヶ月後に使用をやめ、その後約5ヶ月間CPAPなしで車を運転し続けました。事故当日は配送の仕事中。赤信号を無視して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた70代男性をはねました。「強い眠気を自覚しながら運転していた」とされています。
このケースが注目される理由は、「治療を自己判断でやめた状態での事故」が法的にどう問われるかという点にあります。医師から治療を指示された疾患を放置して事故を起こした場合、「不注意による過失」ではなく「危険運転」として問われうる——その前例になりうる事件です。
未治療SASの運転リスク——研究データが示す「飲酒運転との同等性」
重症SASは血中アルコール濃度0.05〜0.08%と同等の運転障害
海外の研究では、未治療の重症SAS患者の運転シミュレーター成績は、血中アルコール濃度0.05〜0.08%の状態と同等の運転障害を示すことが報告されています。日本の酒気帯び運転の基準は血中アルコール濃度0.03%以上。つまり重症SASを治療しないまま運転することは、法律上の飲酒運転基準を上回る危険状態での運転に相当します。
また、SASがある方は健常者と比べて交通事故リスクが約2.5倍高いとされています。「眠い自覚がないから大丈夫」は通用しません——SASの特徴のひとつが、本人が眠気を自覚しにくいことだからです。
5秒の「マイクロスリープ」で車は何メートル進むか
SASがある方に起きやすいのが「マイクロスリープ(瞬間的な意識消失)」です。わずか2〜10秒の出来事ですが、この間は完全に意識がなく、ブレーキもハンドル操作もできません。時速60kmで走行中に5秒間意識が消えると、車は約83m無制御のまま進み続けます。時速100kmなら約139m。赤信号も、横断歩道の歩行者も、関係なく車は直進します。
CPAPは「毎日使うこと」が大前提——使わない日は未治療と同じ
「治療中だから大丈夫」は間違い
CPAP治療により、事故率が健常者水準に近づくことは複数の研究で示されています。しかし、前日にCPAPを使用しなければ、翌朝の眠気は改善されていません。機器を持っていても使わない日は、未治療と変わらない状態で車を運転していることになります。世田谷の事故もまさにそのケースでした。
「マスクが合わない」「外れてしまう」「旅行先に持って行くのが面倒」——使い続けられない理由はさまざまです。当院ではCPAP使用データを定期的に確認し、フィット調整や設定見直しを行っています。使いにくさを感じている方はご相談ください。
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職業ドライバーはSASスクリーニングが義務——一般の方も運転するなら検査を
国土交通省通達による義務化の背景
バス・タクシー・トラックなど事業用自動車の乗務員に対しては、国土交通省の通達によりSASスクリーニングが義務付けられています。過去に発生した高速バスや貨物車の居眠り運転事故を受け、職業ドライバーの睡眠管理は「安全管理の一環」として制度化されてきました。
義務がなくても「運転する方・人命に関わる作業をする方」は検査を
スクリーニング義務があるのは職業ドライバーだけですが、日常的に車を運転する方・家族の送迎をする方・医療・介護・建設など人命に関わる作業をする方にも、SASのリスク評価を強くお勧めします。世田谷の事故の加害者は職業ドライバーではなく、配送業務での一般的な運転中に起きた事故でした。「自分は職業運転手ではないから関係ない」は成立しません。
お盆の帰省でいびきを指摘された方——お盆明けにぜひ受診を
帰省はSASに気づく貴重な機会
お盆(8月13〜16日前後)は、普段離れて暮らす家族と同じ屋根の下で過ごす数少ない機会です。「そんなにいびきをかいていたの?」「夜中に何度も息が止まっていた」——こうした指摘を帰省中に受けて初めてSASの可能性に気づく方が少なくありません。
自分では眠気も気づきにくいのがSASの特徴です。家族から指摘を受けた記憶がある方、あるいは朝の疲れ・日中の眠気・集中力の低下を感じている方は、お盆明けに一度ご相談ください。
入院不要・自宅検査から始められます
当院のいびき外来では、自宅で行う簡易検査からSAS診断・CPAP導入まで一貫して対応しています。「検査が面倒そう」「入院が必要なのでは」と思っている方も多いですが、まず自宅で機器を装着して一晩寝るだけの簡単な検査から始められます。
まとめ
- 2026年4月、SAS診断後にCPAPを5ヶ月放置した運転手が70代男性を死亡させ書類送検。危険運転致死罪適用なら全国初の可能性
- 未治療の重症SASによる運転障害は、血中アルコール濃度0.05〜0.08%と同等——日本の酒気帯び基準(0.03%)を超える
- CPAPは毎日4時間以上使って初めて事故リスクを最大70%低減できる。使わない日は未治療と同じ
- 職業ドライバー以外でも、日常的に運転する方・人命に関わる仕事をする方はSAS検査を
- お盆の帰省でいびき・無呼吸を家族に指摘された方は、お盆明けにぜひ受診を
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